遠き夢と、今



ねぇ、あなたの羽根、とても綺麗ね。
そんな事言わないで。とても綺麗な色してると思うわ。わたし、黒って好きよ。
これ?剣よ。わたし強くなってみんなを守るの。え?あなた剣を初めて見るの?
そうだ!あなたも剣を使うようになったらいいわ!一緒に訓練しましょうよ。
無理?戦う事なんてできない?
もう、そんな事言わないで!やってみなくちゃわからないじゃない。

あ、その前にあなたの名前、訊いてなかったわね。わたしの名は―――


―――ナ―――これで、良かったのか―――



よし、終わったぞ。セフェラン、約束じゃ。教えてたもれ。
そんな事言うでない。約束ではないか。今日の決済を日暮れ前にすべて片付けたぞ。
わたしも自分の身を守る術をつけたいのじゃ。
本当なら天馬を駆って剣を振るいたい所だが、お主とシグルーンが猛反対するから魔道で我慢しているものを。
何?無理じゃと。神使は戦う必要がないと。
そんな事言うでないわ!やってみなくてはわからぬではないか!


―――この手で、この世界を裁く杖を振り下ろす事が―――


ねぇ、この子は将来どんな子になるのかしら。
あなたみたいに、歌が好きになってくれるかしら?
酷いわね。わたしに似て凶暴でがさつになるかもしれないって。
……そうよね。これから産まれるこの子と、一緒に創って行くのよね。あの方に、誓ったもの。
ラグズとベオクが争いのない世界を。
あの方が心安らかになれる世界を。




まったく、元老院の狸どもめ!
口が過ぎると?腹黒い誰かさんよりかはマシじゃ。
そもそも、あの古狸どものせいでまとまる物もまとまらん。
二十年前のセリノスの暴動の真実を発表するのに、何が問題あろう。
特にルカンめ、宮廷中の家臣に根回しまでしよってからに。あの髭燃やしてやろうかと思ったわ!
凶暴だと?腹の中では何考えているのか判らない誰かさんよりかはマシじゃ。
……ふう、こんな所でつまずいては先が思いやられる。これからベグニオンは変わっていかなければならんのじゃ。誓ったのじゃ。あの者たちに。
ラグズとベオクはともに生きる世界を。
女神の名の元に、誰もが心安らかなる世界を。


―――こんなにも、光が差し込んでいたのに、自ら心を凍らせて―――

 



―――ン

長い髪。
ああ、オルティナ。私を迎えに来てくれのか。そうだ。私は悪い子だ。君の言う通り。

―――ラン。
違う。子どもだ。あの子か……いや、違う。あなたは……



「セフェラン!しっかりせよ!」
 ああ、そうか。これで、よかったのだ。

 私が自ら独りになっても、私に差し込んだ光があった。暖かくて懐かしい光が、希望を打ちたて、絶望した地に差していた。
 けれど、その陽が暖めるのは決して私ではいけないのだ。
 この世界を照らす、誰よりもまばゆく、暖かい存在に。破滅を望みながらも、そうなるように私は無意識のうちに願っていた。
 なぜならば、あなたは私とオルティナの遺した、小さな小さな―――


「サナ、キ様……わたしの……」

 
 私の小さなしあわせ。


2007/11/27 戻る

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