7 結ばれぬ恋の行方
ダンスホールから逃げ出すようにバルコニー出た。ダンスとかそういったものは苦手ではあったし、彼がバルコニーへ出て行ったのを見つけたからだ。
「お綺麗です。アルテナ様」
あの頃と少しも変わっていない笑顔。そう思い込んでいるだけなのかもしれないが。
「ありがとう」
わたしは差し出された手を取る。わかっている。その仕種が、言葉が、顔が何一つ変わってくれない事など。わたしは「一国の姫」であってあなたはその国に仕える「騎士」だから。あなたはそういう人だから、こんな国を挙げての式典の中では、わたしから来なければ近寄ろうともしない。
「この度のご成婚。誠におめでとうございます」
「ええ。これでレンスター、いえ、このトラキア半島の繁栄のために力になれるなら」
少し嫌味だったかしら。彼は相変わらず柔らかい笑みをしているが、返答に困っている様子だった。あなたが慌ててくれるのを期待して縁談の相談をしたのが馬鹿だった。だからこれくらい言わせて欲しい。
「ねえ、フィン」
「はっ」
「わたしのレンスターの姫としての最後のお願い聞いて下さるかしら?」
「いつまでも私の忠誠はアルテナ様にございます。最後とは言わずこれからも・・・」
掠れたような声を無視してわたしはフィンの首に飛びついた。小さな頃はよく彼を見つけるとその体に飛びついていたものだ。昔と比べてずいぶんと体も大きくなったが、彼はさして驚きもせずにわたしを抱え上げてくれた。
「重くない?」
「いいえ」
覗きこんだその顔はやはり記憶通りの優しい笑顔。
わたしはこれ以上自分の顔を見られたくなくて、にぎやかな広場の向こうにある丘を見た。
遠乗りに行く時、必ずレンスターの城下町をそこから臨んだ。いつもは見上げていた街も城も人もみんな小さくて、人形のようで面白かった。そして何より体を支えてくれる暖かい腕が幸せだった。
「フィン」
「はい」
「こうしてあなたと見るレンスターが大好きでした」
「私もです」
わたしを支える腕がより強く抱き締められたものと勘違いして、夜空を仰ぐ。夜の冷たい風が熱くなった顔にちょうどよかった